世界各地から集まった動物たちは個性派ぞろいです。その動物特有の気質に加え、それぞれの風土や民族性をもかいま見せる発言や振る舞いで会議を盛りあげます。彼らに共通するのは、みな心から故郷の地を愛していること。しかし、地球上いたるところで環境破壊が進んでいる今日、動物たちは日々の生活に危機感を抱き、現状を変えたいという思いから会議に参加しています。日本のタヌキ、ブラジルのワニ、といったように国名を故郷の名称にあててはいますが、それぞれの動物たちは必ずしも「国の代表」というわけではありません。タヌキは長野出身で東京近郊に暮らしていて、ワニはアマゾンの熱帯雨林がすみかです。さらに、国境のない海が出身のアザラシや、無国籍のハイエナ、放浪職人として国から国へとさすらう北極グマも登場します。動物たちの発言は自分の生活習慣や伝統文化を無意識に踏まえたものですが、そこには異文化への無知や偏見からくる誤解も混入しています。でも、動物たちは「相手を知りたい!」という純粋な気持ちから、カンカンガクガクの議論を通して異文化への理解を深めつつ、未来の地球のためのアイディアを考えていくのです。
トラのトラジーはインドのパンジャブ地方出身です。父親はトラジーが幼いころ、密漁の犠牲となり、母親も 病死してしまったので、それ以降、山奥で修行をするヨガ行者たちに育てられました。今は、ヨガ行者たちと も離れて暮らすトラジーは天涯孤独の身です。子どものころからヨガ行者として隠遁生活をしてきたトラジー はもうすぐ還暦ですが長年にわたる菜食と修行のおかげで頭はさえわたり、体も健康そのもののトラジー。密 猟者の手によって、すでにヨガ仲間の何匹かが殺され、自分の住処も安全な場所ではなくなったトラジーは、 意を決して、カレーを作る片手ナベひとつをぶらさげて山をおりることにしました。粗衣粗食、シンプルライ フを自ら実践するトラジーの提案は、都会でのモダンな生活を営むものたちにとっては、ストイックすぎて、 ついていけないことばかりです。ヨガで鍛えた精神力と落ち着きはらった風貌で、「動物かんきょう会議」では、 長老的な役割を果たすトラジーですが、長年、現代社会と隔絶して生きてきたために、突拍子もない意見を述 べて、ほかの動物たちを唖然とさせることもしばしばです。
タックは東京で、大学のコミュニケーション学科を卒業後、人材派遣会社に就職しましたが、仕事の内容に興 味がもてないまま2年で退職。 現在は福祉関係のNPO でアルバイトをしながら自分探しをしている26 歳の 青年です。まじめで誠実なタックは、仕事でも日常生活でもひとつひとつていねいに取りくんでいくので、周 囲から信頼を勝ち得ていきます。人の気持ちを敏感に察して細やかな気配りをするタックに、周囲の人たちは いろいろと相談をもちかけます。相手の気持ちを理解しすぎて、相手に感応してしまう繊細なタックにとって は、精神的にきついこともありますが、いつも親身になって対応をしています。今は東京近郊のアパートで兄 と二人暮らしをしているタックですが、早く一人暮らしをするためにも、正社員としてどこかの企業に就職せ ねばというあせりも抱える毎日です。さて、草食系男子でインドア派のタックの趣味はあやとりと編み物。土 曜日には、男性ばかりの編み物サークルに参加して、そこで編んだ手袋やマフラーを、NPO で介護を担当し ているお年寄りたちにプレゼントする心やさしい青年です。
ベルリンの緑豊かな住宅街にすむハリィは、光学機器メーカーに勤務する29 歳の青年です。自然をこよなく 愛するハリィはもの静かで、常にものごとを論理的、効率的に考えます。環境先進国といわれるドイツを誇り に思っていて、環境に配慮した質素な日常生活を送っています。好きな言葉は「節約」と「秩序」。両親はベ ルリン出身で、父方の祖母がスウェーデン出身のクオーター。ハリィは旧西ベルリンの両親の所有するアパー トメントで一人暮らしをしています。長身で細身のハリィですが、最近おなかがでてきたため水泳をはじめま した。ハリィの趣味は風景写真を撮ることと音楽と散歩。写真は自分で現像するほど凝っていて、イースター や夏のバカンスを利用して、北欧をめぐっては写真を撮り続けています。音楽は主にクラシックが好きで我流 でチェロを弾きますが、学生時代はパンクロックのバンドをくみギターを担当していました。ベルリン郊外に は大小の湖が点在していますが、ハリィは週末には自転車で郊外の湖畔をサイクリングするのが楽しみ。その 時、必ず持参するのは、ポット入りのハーブティーとライ麦パンにチーズをはさんだサンドウィッチです。
世界遺産の街サンクトペテルブルグで古美術商を営むクマのターニャ。子どものころから美術館や宮殿に足し げく通って審美眼を鍛えたターニャは、若いころはオペラ歌手としてマリンスキー劇場の舞台を踏んだことも ありましたが、引退した今は、帝政ロシア時代の絵画や調度品を扱う古美術商をしています。外国人観光客だ けではなく、街の若い人たちにも、古き良き時代のロシアの伝統や美意識、ロシア芸術を伝えたいと、ターニャ は定期的なアートセミナーをボランティアで開催しています。オペラ歌手だったターニャは、いつも琥珀や金 のアクセサリーで、ゴージャスに装っています。唯美主義の彼女はわがままでエキセントリックですが、なぜ かまわりを惹き付けるカリスマ的な魅力にあふれています。
ロンドンはシティの金融街でマーケティングの仕事をするDr. ラビは経済博士。大学院を卒業した後、金融関 係の職場を2回ほど転職した36 歳のエリートです。Dr. ラビの好きな言葉「知は力なり」が示すとおり、豊 富な知識と分析能力が自慢のデータオタクです。食事のときもベッドでも、常にノートパソコンかiPad を肌 身離さず持ちあるいているDr. ラビ。表向きの趣味はチェスとガーデニングで、田舎に所有するコテージに毎 週末、きゅうりとディルのサンドウィッチ持参ででかけては、草花をいじってリフレッシュしています。一方 で日本製のアニメーションが大好きで、フィギュアのコレクターでもあるのですが、周囲にはこのことを秘密 にしています。争いごとやもめ事が大嫌いなDr. ラビは、他者とは常に距離を保ちつつクールにつきあいたい と考えるタイプ。「動物かんきょう会議」では、常に「データ提供者」という役回りを演じつつ、自分が論議 に巻き込まれないように細心の注意をはらいながら立ち回っています。
アマゾン出身のワニールは故郷のジャングルをこよなく愛する熱血漢。故郷のアマゾンも焼き畑で消失し、一 家総出で街に仕事を求めてやってきました。妻と子ども3人の5人暮らしのワニールは今はトロリーバスの運 転手をしています。妻は郊外のコーヒー農園で働きながら苦しい家計をささえています。正義感が強いワニー ルは、不正や嘘は見逃せない潔癖な性分で、一度頭に血がのぼるとおさえきれずに感情を爆発させてしまいま す。故郷のアマゾンの消失は日本の企業のアマゾン開発が原因だと思い込み、真実を調べもせずに、いきなり 日本のタヌキを非難して、タックを震えあがらせます。さて、ご多分にもれず大のサッカーファンのワニール は週末には子どもといっしょにサッカーを楽しむやさしいお父さん。カーニバルでは徹夜でお酒を飲み、サン バを踊りまくる典型的ブラジル人でもあるのです。
オンドリのジャンは南仏ニースの生まれ。今はパリの小さな出版社で編集の仕事をしています。本業のかたわら で前衛詩を文芸誌に発表する、その世界では名の通った詩人でもあります。毎朝、オフィスの近くのカフェで、 5 種類の新聞に目を通し、カフェの常連たちと雑談をかわしてウォーミングアップをするのが習慣です。パック スのパートナー、ベレニスと彼女の11 歳になる連れ子(男の子)ジャン(同じ名)と暮らしていますが、日本 のコミックとゲームが好きな男の子の影響で、最近、マンガを読むようになりました。仲が良くて、一見、幸せ そうな家族なのですが、実は、困った問題が……。ジャンは自らウサギや魚をさばくほど料理の腕前はプロ級で、 自他ともに認める美食家なのですが、ちかごろベレニスがマクロビオテックに興味をもちはじめ、夕食のメニュー をめぐっての喧嘩が頻発しています。食事療法で、アトピーで苦しむ息子の体質改善にとりくんでいるベレニス が、ジャンの美食を非難するのです。さて、多くのパリジャンがそうであるように、ファッションにはちょっと こだわりをもっているジャン。ストレスを発散するかのようにブティック通いをする今日このごろです。
テキサス出身のハクトウワシのワッシ。家は大豆農家で広大な農地を所有しています。ワッシは男ばかり3人兄 弟の真ん中。ハイスクール卒業後、両親が経営する農園を手伝っています。今年32 歳になるワッシの特技はダー ツとクルマと発明。体格が良く声も大きくて社交的なワッシは、地元ではかなりの人気者です。しかも、手先が 器用でたいていのことは勘でできてしまうワッシは、かなりの自信家で生意気です。遠慮を知らないワッシは、 動物会議の最中も本音でズバズバ発言し、まわりの動物たちのヒンシュクをかうこともしばしば。環境を配慮し た生活なんてあまり考えたことがありません。クルマが大好きで、中古車を買い替えては自分で改造するワッシ は手先がとても器用。農園の農具小屋を改造して、日常生活に便利に役立つものをいろいろと発明しては、家族 や友達からおもしろがられ、特許を申請してもいるのですが、なかなかお金には結びつかない状態です。ワッシ は粉末を溶かしたクランベリージュースとベーコンバーガーとお寿司のカリフォルニア巻きが大好き。最近、ハ イスクールの時からつきあっていたガールフレンドと別れたばかりで、少々、荒れ気味のワッシです。
ケニア共和国のサバンナ高原で大家族に囲まれて幸せに暮らしているゾウママは、子どもが6人、孫が15 人 もいるビッグママです。ゆっくりと歌うようにしゃべるゾウママは小さなことにはクヨクヨしないポジティブ シンキングの持ち主。おおらかで包容力のあるゾウママは、家族からもまわりのゾウたちからも慕われて、相 談ごとをもちかけられる女長老的な存在です。ゾウママの趣味は「毎日の生活」をていねいに送ることです。 感性豊かなゾウママの好きな言葉は「スローライフ」と「なんとかなるわ」。実は、祖父と夫が密猟の犠牲に なったという悲しい体験をしているのですが、いつも明るく楽しげにふるまっています。動物会議中に対立が おきそうになると、みんなをなだめる潤滑油的な役割を演じ、環境問題への知識が豊富なわけではないのです が、直感で発言するゾウママの言葉には力強いものがあります。
一生のほとんどを熱帯林の木の上ですごす「森の人」オラウータン。 「森の人」の聖地インドネシアでは森林破壊がすすみ、 この20年間で、なんと8割もの生息地が失われ、オラウータンは絶滅の危機に瀕しています。幼いころから、将来への不安を感じてきたウータは、 生物学の研究者になり、森林保護の仕事もしながら、ボルネオの森を見まわる毎日です。 仕事のときは、いつも筆記用具を持ち歩き、フォレストレンジャーのユニフォームを 身に付けているウータですが、オフには、大好きなバティックの民族衣装に 着がえ、のんびりと釣りをするのが一番の楽しみです。 泰然自若としているウータは森の生き物たちになにかと頼られる存在です。
中国の四川省出身のジャイアントパンダ、パオは、中国の四川省生まれ。エネルギー関連の会社を経営するバリバリの仕事熊猫です。パオが 10年前に起業したエネルギー関連の会社は飛躍的な成長を遂げています。朝から晩までパワフルに仕事をこなすパオの楽しみは、 一人娘のランランとドミノ倒しをして遊ぶこと。 そして、幼少のころから、画家だった祖父の手ほどきをうけてきたパオの水墨画の腕前はなかなかのものです。仕事上の迷いが生じると、筆をとって絵を描きながら、自分と対話をするのです。
川の流れをせき止めてダムを作り、その内部に住みかをつくるビーバーですが、 自らの習性ともいうべき才能をさらに進化させて、 インスタレーションにまで昇華させたのは、アーティストのイーヴァです。 イーヴァが川をせき止めて創った池は、多くの生き物たちに 大きな恩恵をほどこします。イーヴァの池には水草が茂り、水鳥の住み処となります。 何年もの歳月を経て、池には肥沃な土砂が堆積し、草が生茂り、 その草を食べに草食動物が集まってくる。と、こんな感じです。 イーヴァのインスタレーションは、広い空間と長い時間をかけてじっくりと 醸成され変化するアート。それは「エコスタレーション」という新しい環境アートの草分けとなっているのです。
エクアドルのガラパゴス諸島からやってきたイグアナのイーグとガーラの兄弟。兄のイーグはサボテンとの コミュニケーションでイーグノーベル賞を受賞したばかり。弟のガーラはサボテンの食品加工の仕事をしています。 ピンクイグアナのイーグは、過酷な環境の中でたくましく生きぬくサボテンに、 恐竜を先祖にもつ爬虫類のイメージを重ね、研究を深めていくうちに、 サボテンと会話ができるようになりました。 そんなイーグが、サボテンとの細やかな心の交流を通して生み出したのが、長寿エキスです。 今、弟のガーラが営む食品加工場では、その商品化に成功し 世界各地から注目をあびています。イーグは朝から晩までサボテンの研究に余念がありません
キイヌはソウルの大学二年生。児童心理学を専攻しています。正義感が強くて、凛としたたずまいの女性で、 子どものころから続けているテコンドーはかなりの腕前です。子どもが大好きなキイヌは、将来は世界の めぐまれない子どもたちのためにNGOで働きたいと考えています。今は英語の勉強に精をだし、留学資金をためるために、 ホテルでアルバイトをしています。いつも前向きで積極的にものごとに取り組むキイヌにも、悩み事があります。 高校生の弟が不登校になり家にひきこもっているのです。
世界の七不思議、古代都市エフェソスのアルテミス神殿の遺跡。 ここが幼いころから慣れ親しんだラムジィの遊び場です。 キリム工房を営む祖父に育てられたラムジィは、おじいちゃんが大好きです。 伝統的な織物キリムを世の中に広めたいと、きれいな色を出すために草木染めを 研究する祖父のうしろ姿を見て育ったラムジィ。 学校を卒業したらおじいちゃんの工房でキリムの修業をするつもりです。 とはいっても、14才のラムジィは遊びざかり。 毎日のように神殿の遺跡あたりをうろついては、宝探しをしたり、 観光客をガイドしてお小遣いをかせいだり、時にはおじいちゃんの工房ヘ お客を連れてきたりと、好奇心いっぱいの少年なのです。
アカカンガルーのルーポは子育て真っ最中の新米ママ。生後5ヶ月の息子ジョーイから、一時も目をはなすことができません。 とはいいながら、オシャレにも気をぬきません。 シドニーにある鉱物輸出会社で秘書をしていたルーポは、 初産をきっかけに故郷に戻ってきました。 オゾン層の破壊が深刻なオーストラリアでは、99%UVカットのサンシェード付きベビーカー はもちろんこと、サングラス、つば広の帽子と日焼 け止めクリームが必需品です。 今は、SNSで世界のママたちと「子供たちのためのエコ」を語り合う毎日です。 今日も、ベビーカーとのカラーコーディネイトでセンスよく装うルーポです。
アーシィは孤独なアザラシの少女です。原因不明の病気で、両親も多くの友だちのアザラシも死んでしまいま した。アーシィの暮らす海には、さまざまな国や地域から水が流れ込みます。海に住む生き物たちには、国境 など関係ないのです。アーシィは、漁で使われた網にからまって苦しんでいるところを、たまたま船で通りか かった韓国のキィヌに助けられました。海でおこっている深刻な環境汚染を伝えたいと、「動物かんきょう会議」 にやってきたのです。
ハイエナのハイダラは謎が多い存在です。国籍、職業、年齢、家族構成はもちろんのこと、ハイダラが何を考 え、どんな主義主張をもっているのかさえ、誰も知りません。自らのことはいっさい語らず、感情を全くあら わさないハイダラは、不気味な薄笑いを浮かべながら、かなつぼまなこの奥から冷ややかに、まわりの動物た ちを観察しているのです。