「サワッディー クラップ！　僕の故郷、タイの森へようこそ！」

ニシキヘビのブアカオが、元気良く挨拶しました。

「えっと……、『サワッディー クラップ』は、
『こんにちは』って意味だね」

日本から来たタヌキのタックが、
タイのガイドブックを見ながら言いました。

「あらタック、女性は『サワッディー カー』って言うみたいよ〜」

そう答えるのは、ケニアから来たゾウのゾウママです。
同じ『こんにちは』でも、女性と男性でちょっと言い方が違うんですね。

「お～いっ、そろそろ行こ〜よぉ！」

ブラジルから来たワニのワニールと、
インドネシアから来たヘラクレスオオカブトムシのシボランが、
うずうずしながら言いました。
動物たちは、これからピクニックに出かけるようです。

みんなで森の小道を楽しく歩いているときでした。

「あれ？　誰か、たき火をしてるのかな？」

シボランが、もくもく立ちのぼる煙に気付きました。

「そうだ！　みんなで焼きイモつくろうよ〜」

と、ホクホクに焼けたおイモを想像しながら、タックが言いました。

でも、
ブアカオはとっても慌てた様子です。

「タック、シボラン、違うよ！！　あれはっ……」

「山火事だ〜！！」

メラメラメラメラ！
ゴウゴウゴウゴウ！

と、燃え上がる炎を見て、動物たちは大パニックです。

「わ〜っ！　大変だあ〜〜！！」
「だれか、来て〜〜！！」

「はっ、はやく火を消さないとっ！　水！　水はどこだ〜！」

ワニールが、赤い顔をさらに真っ赤にして、水を探しています。
炎は、どんどん広がっていきます。

(間)

そのときでした。

「みんな〜、大丈夫よ〜」

のんびりと大きな体を揺らしながら、ゾウママがやって来ました。

「大丈夫なわけないだろッ、ゾウママ！　森が燃えちまうよ〜！」

ワニールが大声で叫びました。

でもゾウママはやっぱりのんびりした様子で、

「私にまかせなさぁ〜い」

と言うと、ながーい鼻を空に向かって伸ばしました。

「せ〜〜のっ！」

ぴゅっ〜〜〜！！

ゾウママの鼻から、一気に水が噴き出します。
近くにあった川から、目一杯の水を体に蓄えてきたのでした。

火の勢いは、みるみる弱まっていきます。

「ゾウママ、すごい！！」

パチパチパチと動物たちは拍手喝采です。

火が消えて一安心。
動物たちは、森を見渡せる丘の上で休憩することにしました。

ところが・・・。

「あれ？　何だか森が変だよ」

タックが不思議そうに言いました。

「どうしてこんなに木が少ないの？　これじゃあ、はげ山だよ！」

するとブアカオが、悲しそうな顔をしてつぶやきました。

「これはね・・・・、『焼畑農業』というやり方のせいなんだ」

「焼畑農業！？」

みんなびっくりして、ブアカオのほうを見ました。

「焼畑農業は、森の一部を燃やして、畑に変える農業のことなんだ。
何年か作物をとると、土地が痩せてしまうから、また別の場所を燃やして畑にするんだよ」

それを聞いたワニールが、思わずブアカオの話をさえぎります。

「オイオイ！　そんなことしたら、森がなくなっちまうぞッ！」

「うん、ワニール。昔はね、燃やしたところが元に戻るのを待って、少しずつ焼畑をしていたんだ。
でも今はそうじゃない。人間は、森の回復よりも畑を増やす方が大事なんだ。それに、焼畑の火が他に燃え移って、さっきみたいに山火事になることもあるんだよ」

「ひどい！」

動物たちが口をそろえて言いました。

ブアカオは、暗い顔で話を続けます。

「木が減ってしまうと、森は、雨が降っても水を貯められなくなるんだ。
そうすると、とっても恐ろしい災害、土砂崩れや洪水が起きることがあるんだよ。このままだと、僕のふるさとの森がなくなってしまうよ・・・・」

動物たちは、ブアカオの話を聞いて、どうしたら良いのか考えます。

「森を守るためには、焼畑農業を止めさせるしかないぞっ！」

ワニールが怒りに任せて言いました。

「僕は、国や政治家に『森を守って』とお願いするのが良いと思うな。だって、森はみんなのものでしょ？」

今度はタックが自分の考えを主張しました。

最後にシボランが、難しい顔で言いました。

「でも人間は、いつまでたっても森の大切さに気付かないかもしれないよ。
ブアカオ、この森はあきらめて、早く他に引っ越した方がいいんじゃない？」

さあ・・・・、みんなは動物たちの考えをどう思ったかな？
そして、みんなだったら、どうすれば良いと思うかな？

（間）

一生懸命に考えていると、

「ホラッ、お腹空いたでしょ〜」

と、ゾウママがいろんな食べ物を持ってきました。

「えっ！？　どーしたの、それ？！」

シボランが目をパチパチさせながら尋ねます。

「も〜ちろん、この森で収穫したの。ちょっと量は少ないけど、でも、森はまだ生きているわよぉ」

「ありがとう、ゾウママ！」

動物たちは、森でとれた果物や木の実、キノコをおいしそうに食べました。

（間）

「やっぱり僕は、この森をもっと元気にしたいよ！」

ブアカオはそう言うと・・・・・、

せっせと土を掘り、そこに、一本の木を植え始めました。

「よいしょ、よいしょ、よいしょ・・・・・。
心を込めて植えれば、きっと大きく育つはずだよ！」

そんなブアカオの姿を見て、動物たちは決めました。

「みんなで木を植えよう！」

「植えよう！」「植えよう！」
「木を植えよう！」

他の動物も呼んで、何だかとってもにぎやかです。大変な作業だけど、楽しそうですね！

「コップンクラップ！」

ブアカオが、木を植えてくれた動物たちにお礼を言いました。「コップンクラップ」は、タイ語で「ありがとう」という意味です。

（間）

たくさんの仲間と一緒にがんばれば、
そして、森を愛する心を失わなければ、
きっと豊かな森がよみがえるはずです。
人間と動物が、一緒に仲良く暮らせる森になりますように！

（間）

おしまい。